長男への自社株承継と遺留分について

Q この度、長男に自社株を譲って自社の経営から引退しようと思っていますが、民法の遺留分の評価時点が生前贈与時でなく相続発生時であることから、経営を引き継いで一生懸命頑張って会社の価値を上げても、その分遺留分で他の兄弟に持っていかれてしまうのではやる気が湧かないと長男がこぼしております。遺留分が事業承継の障害とならないような方法はないでしょうか。

1 遺留分は、予め裁判所の許可を得て放棄することも可能です(民法1043条)。

しかしながら、放棄者が裁判所に出頭しなければならないことから、放棄するのにわざわざ裁判所まで行って面倒な手続きを踏んでくれないという問題がありました。
そこで、後継者1人で上記の問題を解決できるようにすることで、事業承継を円滑に進めることを目的として、中小企業経営承継円滑化法が制定され、同法は、平成21年3月1日に全面施行されました。

2 同法の内容は、簡単に説明すると、以下のとおりです。

例えば、事業承継時に遺産として、2000万円の評価の不動産と1000万円の預金、3000万円の評価の自社株があるとします。そして、相続人は、後継者とする長男以外に、次男と長女の2名がいるとします。
これまでは、長男が自社株を譲り受けた後、発奮して自社株の価値を1億円まで高めたとしても、遺留分の評価は2000万円+1000万円+1億円=1億3000万円を基礎として算定されてしまうことから、次男及び長女から遺留分の請求があれば、それぞれ6分の1の2166万円ずつを渡さなければなりませんでした。長男が発奮せず自社株の価値が3000万円のままであれば、2000万円+1000万円+3000万円=6000万円を基礎とするので、次男及び長女の遺留分はそれぞれ1000万円ずつであったにもかかわらずです。これでは、頑張った分、他の兄弟に渡すことになり、長男のやる気がでないといえるでしょう。長男が事業承継しなければ、自社株の価値はむしろ大幅に減少していたかもしれません。
このように、事業承継にあたって、遺留分制度の存在により、後継者のやる気を削ぐことのないよう、手当をする必要がありました。
円滑化法では、以下の二通りの方法を選択することができます。
第一は、固定合意による方法です。弁護士や公認会計士等から相当な価額であるとの証明を得て、合意した価額に評価を固定します。合意後相続開始時までに株式の価額が上昇しても下落しても遺留分算定の際には合意した価額で計算するという方法です。
第二は、除外合意による方法です。生前贈与した株式を遺留分算定の基礎財産から除外する旨の合意を行います。株式以外の財産については、固定合意による方法はとれず、この方法のみが可能です。後継者の経営努力によって価値が上下するという関係に一般的にはないからです。
このような固定合意ないし除外合意を推定相続人全員の間で、書面により行い、経済産業大臣の確認を経て、家庭裁判所の許可を申請します。
家庭裁判所では、真意に基づく合意かどうかがチェックされ、その際には、後継者以外の推定相続人に対し分け前を与えて配慮しているかどうかなどが考慮されることになります(例えば、除外合意を行っているにもかかわらず、全く分け前がないのであれば、真意に基づかない可能性が高いのではないかとの考えに基づきます。)。
上記手続を進めるにあたっては、専門的判断を要することになりますので、御関心がある方は、当事務所宛て御相談下さい。

以上
(H22.8.16記す)

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